組織内の不正行為を食い止めるには?不正防止のために中小企業がすべきこと
企業内で不正行為が起これば、経済的なダメージだけでなく、信用問題にも繋がってしまいます。
とくに、資本力に余裕のない中小企業の場合、従業員による不正によって再起不能になってしまう可能性すらあります。
したがって、大企業だけでなく、中小企業も不正防止に対しては高い意識を持ち、十分な対策をしておかなければなりません。
そこでこの記事では、不正行為が発生してしまう原因や、不正行為の種類、不正防止のための対策法などについて詳しく解説していきます。
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不正行為が発生する原因
業務上横領や機密情報の漏洩といった不正行為を行い、それが発覚すれば、非常に厳しい社会的制裁が加えられることは多くの人が理解しています。
それでも、不正を働いてしまう従業員は後を絶ちません。
では、なぜ人は不正行為を行ってしまうのでしょうか。
そのカギを握るのが、「不正のトライアングル」です。
不正のトライアングルとは、1950年代に犯罪学者のドナルド・クレッシーが提唱した理論で、人が不正を働く際の3つの共通要素を示したものです。
3つの要素については以下の通りです。
| 動機・プレッシャー | 不正を働く理由や切迫した状況を指す。個人的な要因としては「多額の借金」「生活苦」「ギャンブル依存」など、業務上の要因としては「達成困難な業績目標」「昇進・昇給への強いこだわり」「予算達成へのプレッシャー」などが該当する。 |
| 機会 | 不正を実行可能にする状況や環境のことを指す。組織的な要因としては「内部統制の不備」「職務分掌の欠如」「過度な権限集中」「管理監督の甘さ」など、システム的な要因としては「アクセス権限の管理不備」「監査証跡(ログ)の未実施」「チェック体制の形骸化」などが該当する。 |
| 正当化 | 不正行為を自分の中で合理化する心理的なプロセスを指す。たとえば横領ならば、「一時的に借りるだけ」「会社に多大な貢献をしているからもっと報酬を得てもいいはず」「他の人も同じことをしている」といった考えで自らの行為を正当化する。 |
これら3つの要素が揃うと、不正が発生するリスクが高まります。
組織における主な不正行為
組織における不正行為には様々なものがありますが、代表的な不正としては以下のようなものがあります。
- 問題のある会計処理
- 会社資産の不正利用
- 機密情報の漏洩
それぞれ、詳しく解説していきます。
問題のある会計処理
企業の業務において、不正行為が行われやすいのが「会計処理」です。
問題のある会計処理を大別すると、「不正会計」「不適切会計」「粉飾決算」の3種類となります。
以下、それぞれの不正の概要や特徴について紹介します。
| 問題のある 会計処理の種類 | 概要 | 特徴 |
| 不正会計 | 架空の売上を計上したり、費用を隠蔽したりなど、意図的に財務情報を操作し、虚偽の情報を提供する行為。 | ■明確な意図のもとに行われる不正 ■法律に違反する行為 ■企業の信頼性に深刻な影響を与える |
| 不適切会計 | 必ずしも意図的ではないが、会計の基準や規則に違反する形で財務情報を処理する行為。 | ■基準や規則に従っていない処理 ■意図的でない場合がある ■内部監査などで発見されることが多い |
| 粉飾決算 | 特定の期間中の収益を過大に計上したり、かかった費用を後ろ倒しにしたりなど、企業ぐるみで行う会計操作。 | ■財務状況を一時的に良く見せるための操作 ■決算期前後に行われることが多い ■長期的な視点では持続不可能で、後に問題が露見することが多い |
とくに大きな違いは、「意図的かどうか」という点です。
不適切会計は、担当者の知識不足や連携ミスなどで発生してしまうものですが、不正会計や粉飾決算は、不正だと認識した上で行われるものです。
また、法的リスクの点でも違いがあります。
不適切会計は、人為的なミスとして修正対応で事なきを得ることが多いものの、不正会計と粉飾決算は法的な罰則を科される可能性があります。
会社資産の不正利用(業務上の横領)
会社資産を不正利用する「業務上横領」とは、会社の財産や資金を不正に占有・使用する行為を指します。
刑法では、業務上占有している他人の財物を横領した場合、業務上横領罪として一般の横領罪より重い処罰の対象となります。
たとえば、以下のような行為です。
- 現金を扱う従業員が売上金や預り金を着服する
- オフィス機器や在庫商品といった会社の資産・商品を売却して利益を得る
- 実際には発生していない架空の経費を計上する
業務上横領は、会計処理の不正とは異なり、全従業員に機会があるため、チェック体制を厳重にしなければなりません。
機密情報の漏洩
企業が保有する重要な機密情報を、従業員が「第三者」や「不特定多数」に対して漏らしてしまう、という不正行為も頻発しています。
漏洩に関しては、意図的なものから過失によるものまで様々です。
とくに現在では、SNSが普及していることから、何気なくポストした内容が情報漏洩に繋がっていた、というケースもあり得ます。
漏洩する機密情報の例としては以下の通りです。
- 開発中の商品に関する情報
- 顧客データ
- 従業員の情報
- 会社の財務情報
- 社内でやりとりされていたメールの内容 …など
なお、意図的な情報漏洩が行われる際には、「従業員による会社への私怨」「金銭目的」「転職先への手土産」などが動機として挙げられます。
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不正行為をしやすい従業員の特徴
多くの従業員は、意図的な不正行為を行うことなど考えてはいません。
しかし、以下のような特徴を持つ一部の従業員には、不正行為に走ってしまうリスクが潜んでいます。
- 生活レベルが給料と見合っていない
- 多額の借金がある
- 過度なギャンブル好き
- 会社に対して不平・不満を頻繁に口にしている
- 会計処理に関わりつつ、属人的に仕事をしている
上記に多く当てはまる従業員がいる場合には要注意です。
前述した「動機」「機会」「正当化」という不正のトライアングルが揃ってしまう可能性があるからです。
職場内の様子だけでなく、従業員のプライベートな状況や性格などについても、できる限り把握できるような体制づくりが重要となります。
中小企業こそ実施すべき!不正行為の防止に効果的な対策法
大企業はもちろんですが、中小企業でも、不正行為に対する防止策は十分に練っておくべきです。
なぜならば、中小企業は大企業よりも資本力が乏しいため、一人の従業員の不正行為によるダメージが、会社にとって命取りになる可能性があるからです。
そのため、より真剣に不正行為に対して向き合うべきだと言えるでしょう。
この項目では、中小企業が従業員の不正行為を未然に防ぐための対策法について解説していきます。
内部通報制度を導入する
中小企業が従業員の不正を防止するためには、「内部通報制度」を導入するのが効果的です。
| 内部通報制度とは、企業が企業内の不正を早期に発見して企業と従業員を守るため、組織内の不正行為に関する通報・相談を受け付け、調査・是正する制度です。 |
出典)政府広報オンライン「組織の不正をストップ!従業員と企業を守る「内部通報制度」を活用しよう」
そもそも「公益通報者保護法」によって、300人を超える従業員数がいる企業は内部通報制度の導入が義務付けられています。
従業員の数が300人以下であれば、内部通報制度を必ず設置しなければならないわけではないものの、努力義務が求められています。
内部通報制度があれば、不正に走りそうな従業員を事前に把握することができ、リスクマネジメントに大いに役立つでしょう。
ただし、内部通報制度を導入する際は、「通報者を特定させない」という点を厳守しなければなりません。
通報した従業員が不利益を被るようでは、制度が形骸化してしまうので、守秘義務の徹底が必要です。
一人の従業員に権限を集中させない
一人の従業員に権限が集中しないようにすることも意識してください。
とくに、会計を担当する従業員が、属人的に仕事をするようになってしまうと、どんな不正も簡単に行える状況が出来上がってしまいます。
また、会計処理だけでなく、取引先に対する担当者についても一人の従業員だけに任せるべきではありません。
特定の担当者だけに任せることで、取引先との癒着に繋がってしまい、「担当者がリベートを受け取る」「売上から中抜きする」などの不正が行われてしまう可能性が出てきます。
どんな業務でも、特定の従業員だけに任せるような状況を作らないようにすることが重要です。
経理部門(経理担当者)へのチェックを強化する
経理は、とくに不正が発生しやすい部門です。
お金の流れを処理する部門ですから、不正のトライアングルが満たされてしまえば、不正に走ってしまうことも十分に考えられます。
したがって、経理担当者に対しては、他の従業員よりもさらに厳しいチェックを行うようにしてください。
たとえば、以下のように事細かく縛りを設けるようにすべきです。
- 経理担当者が一人で会社のお金を引き出せない仕組みを作る
- 小口現金が適切かどうか毎日確認する
- 出金履歴を定期的に確認する
上記はあくまで例であり、不正の余地が入らないようにするためには、さらに細かいルールを設定することも検討しましょう。
不正行為防止に有効な内容を就業規則に盛り込む
従業員の不正を未然に防ぐ方法として、就業規則を活用するという方法もあります。
たとえば、企業側が従業員に対し、「貸与しているパソコンを私的に利用してはならない」とした上で、必要に応じて検査も実施できる旨を就業規則に記載しておけば、怪しいと思える従業員のパソコンをチェックしやすくなります。
また、不正による懲戒処分を行う際にも、就業規則に記載がない場合は原則として処分できません。
しかし、様々な状況に応じた処分内容を記しておけば、スムーズに対応することが可能になります。
就業規則に懲戒処分の内容が明記されていれば、不正行為の抑止力にもなるはずです。
まとめ
従業員による不正行為は、企業にとって大きなダメージとなります。
特に中小企業の場合、大企業のように潤沢な資本があるわけではないので、いざ不正が発生した時の対処や、その後のイメージ回復などに費やせるお金も限られています。
そのため、いかに「従業員の不正を未然に防ぐか」が重要になりますので、本記事を参考に、不正が発生しづらい組織作りを強く意識するようにしてください。
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