企業倫理とは?コンプライアンスとの違い、種類、具体例まとめ

企業倫理とは、企業が守るべき価値観・行動規範を指します。近年では、企業活動の透明性や持続可能性への関心が高まる中、企業倫理の重要性が改めて注目されている要素です。
そんななか「コンプライアンス(法令遵守)との違い」や「企業倫理をどう実務に落とし込むべきか」について、明確に理解していない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、企業倫理の定義をはじめ、コンプライアンスとの違い、代表的な種類、具体例を解説します。参考にしたうえで、企業活動のガバナンス強化に活かしてください。
企業倫理とは
企業倫理とは、企業が社会的責任を果たし、ステークホルダーとの健全な関係を築くための価値観や行動基準を指します。単に法律を守るだけではありません。企業として求められる誠実な活動を明文化したものです。
従業員の判断・行動を規範づけるものとして、組織の信頼性と持続可能性を支える重要な要素といえます。
コンプライアンスと企業倫理の違い
企業倫理とコンプライアンスは近い概念ですが、焦点となる対象や範囲に違いがあります。
項目 | コンプライアンス | 企業倫理 |
対象 | 法律・規則 | 道徳・価値観 |
目的 | 法令違反の防止 | 社会的信頼の獲得 |
行動基準 | ルールの順守 | 社会・環境などへの配慮 |
具体例 | 労働基準法に基づく環境整備 | ダイバーシティを意識した雇用促進 |
コンプライアンスは、主に法律や規則の遵守を指します。最低限守るべき基準であり、法令違反を防ぐために必要不可欠な活動です。
一方で企業倫理は、企業が「何が正しいか」「どう行動すべきか」という道徳的判断に基づいて行動する指標を指します。
企業倫理が重要な理由
企業倫理が、経営において重要な理由を5つの観点から解説します。
- 社会的責任を果たすため
- 企業イメージやブランド価値を守るため
- 従業員のモチベーションと信頼を向上させるため
- 顧客や取引先との信頼関係を維持するため
- 法的リスクや制裁を回避するため
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1.社会的責任を果たすため
企業は、単に利益を追求するだけでなく、社会全体の持続可能性に貢献することが求められています。
たとえば「環境に配慮した製品開発」や「地域社会への貢献」などです。
こうした行動は、ステークホルダーからの信頼を得るだけでなく、企業の存在意義をアピールすることにつながります。株主からの信頼はもちろん、顧客獲得、採用活動にも貢献することが可能です。
企業倫理を定め、社会的責任を果たせる環境を整備すべきといえます。
2.企業イメージやブランド価値を守るため
不祥事が一度発覚すると、企業イメージやブランド価値が著しく下がるのは間違いありません。企業倫理を徹底することで、リスクを未然に防げます。
たとえば、企業が製品の情報を積極的に発信することは重要です。消費者に対して透明性と誠実さをアピールできます。
これにより、顧客のロイヤルティが向上し、新規顧客の獲得にもつながることが魅力です。
3.従業員のモチベーションと信頼を向上させるため
企業が倫理的に行動し、健全な職場環境を保つことで、従業員は会社へのモチベーションを保てます。
たとえば「公平な評価制度を導入する」「ダイバーシティを推進する」などです。
その結果、離職率の低下や従業員満足度の向上が見込まれます。生産性や創造性の向上にも寄与します。
4.顧客や取引先との信頼関係を維持するため
企業が倫理的に行動することは、顧客や取引先との長期的な信頼構築につながります。企業倫理を徹底する企業は、顧客やステークホルダーから優先的に選んでもらえるというのも、大きなメリットです。
また、製品の品質を管理し顧客に高い満足度を提供すると、リピーターや口コミを通じた新規顧客の増加も期待できます。
5.法的リスクや制裁を回避するため
企業倫理の遵守は、法的リスクの回避にも直結します。不正行為や違法行為は、罰則や社会的信用の失墜を招き、経営に深刻な影響を与えます。
たとえば、労働基準法や個人情報保護法に違反すると、法令違反による訴訟につながる可能性もあります。企業倫理を定め、遵守することで法的リスクを未然に回避できることが魅力です。
企業倫理の種類
企業倫理は個人や組織として守るべき基本的な枠組みを形成し、社会的信頼を築く土台です。そのため様々な種類があります。
以下に代表的なものを紹介します。
- 個人の責任
- 企業の責任
- 忠誠心と敬意
- 信用性と公平性
- 社会的および環境的責任
1.個人の責任
企業を構成する個人一人ひとりが、自分の行動に責任を持つことは、企業倫理の基本です。従業員が誠実かつ透明性のある行動を取ることで、企業全体の信頼性が向上します。
企業倫理として定める際の具体例は以下のとおりです。
- 業務で得た情報を適切に管理し、不正利用しない。
- チームメンバーや顧客に対して誠実なコミュニケーションを行う。
2.企業の責任
企業全体が法令を遵守し、社会に対して説明責任を果たすことも重要な企業倫理のひとつです。企業は利益追求だけでなく、社会全体にとって有益な行動を取る責任があります。
企業倫理として盛り込む際の具体例は以下のとおりです。
- 製品のリコールを適切に行い、安全性を最優先する。
- 地域社会への貢献を目的とした社会貢献活動を実施
3.忠誠心と敬意
企業内外での人間関係において、忠誠心と敬意を持つことは、組織の結束力を高め健全な職場環境を作り出します。企業として従業員の権利を尊重するためにも、忠誠心と経緯は非常に重要です。
具体例は以下のとおりです。
- 従業員のプライバシーや意見を尊重する。
- 日々のコミュニケーションについて、従業員同士で誠実かつ敬意を持った対応を行う。
4.信用性と公平性
企業は、公平かつ透明性のある行動を取ることで、取引先や顧客からの信頼を得られます。不公平な取引は、企業の評判を損なう原因となるため、注意しましょう。
企業倫理の具体例は以下のとおりです。
- 競争相手や取引先との公正な取引を行う。
- 従業員採用や昇進において差別を排除し、公平な評価を実施。
5.社会的および環境的責任
企業は、社会や環境への配慮を忘れず、持続可能な活動を行うことが必要です。環境保護や社会的貢献を行うことで企業の存在意義を社会に示し、長期的な成長を実現できます。
特に開発や物流など、環境に影響を与える企業は以下のような企業倫理を定めましょう。
- 二酸化炭素排出量を削減し、気候変動対策に貢献。
- 地域社会の発展を目的とした教育支援プログラムの実施。
企業倫理に違反するリスク
企業倫理を無視した行動は、企業活動に深刻な影響を及ぼします。以下に、主なリスクを具体的に説明します。
- 企業イメージの低下
- 顧客や取引先の信頼喪失
- 法的制裁や罰金のリスク
- 離職率の増加
1.企業イメージの低下
企業倫理に違反した事実が明るみに出ると、企業のイメージは大幅に下がります。特に、現代社会では、企業の問題がSNSやニュースを通じて迅速に拡散することが特徴です。
一度傷ついた企業イメージを回復するには、多額の投資と長い時間が必要となります。その間に市場での競争力を失う可能性もあるため、十分に注意しなければなりません。
2.顧客や取引先の信頼喪失
企業倫理に違反すると、顧客や取引先との信頼関係に悪影響を及ぼすこともリスクです。倫理的な問題を抱える企業は「信頼できない」と判断されます。
この場合、取引先がリスク回避のために契約を解除する事例も少なくありません。企業が安定して成長するためにも、企業倫理の順守は必要です。
3.法的制裁や罰金のリスク
企業倫理に違反すると、法的な問題に発展する可能性があります。不正行為や法令違反により、罰金や制裁措置を受けることは大きなリスクです。
たとえば、労働基準法違反が原因で従業員から訴えられた場合、制裁金だけでなく「企業の信用低下」を引き起こします。
4.離職率の増加
企業倫理の欠如により、不正行為やハラスメントが横行する可能性があります。従業員は企業に対して不信感を抱き、離職率が高まる可能性が高くなるため、注意が必要です。
離職率の高い職場は、組織全体の士気を低下させるだけでなく、採用コストの増加にもつながります。新たな人材を採用する際には企業の悪評が障壁となり、人材確保に苦労する可能性もあります。
参考記事:企業で起きるコンプライアンス違反から中小企業を守る方法!具体例・最新事例も
定めるべき企業倫理の例
企業が定めるべき代表的な倫理基準について詳しく解説します。
- 利益相反の回避
- 職場の多様性を尊重する文化
- 機密情報を守るためのルール
- 倫理研修への積極的な参加する
1.利益相反の回避
利益相反とは「個人や組織の利益が企業の利益と衝突する状況」を指します。こうした状況を未然に防ぐための行動基準を設けることが、企業倫理の基本です。
具体的には、従業員が個人的な利害関係を優先して企業の利益を損なうことがないよう、透明性を重視した行動規範を設定します。
具体例は以下のとおりです。
- 社外活動や副業が企業の利益に反する場合、事前に上司や倫理委員会への申告を義務付ける。
- 入札や取引において、利害関係者が関与する場合の対応手順を明確化する。
2.職場の多様性を尊重する文化
ダイバーシティ(多様性)の尊重は、現代の企業において欠かせない倫理基準の一つです。性別、年齢、人種、宗教、性的指向などの違いを認め合い、誰もが働きやすい職場環境を整えましょう。
明確な行動基準を設定し、差別やハラスメントを排除する取り組みを進める必要があります。
具体例は以下のとおりです。
- 採用や昇進において公平な基準を適用し、多様な人材を受け入れる。
- 従業員が安心して働けるよう、ハラスメント防止のための相談窓口を設置する。
3.機密情報を守るためのルール
「機密情報の保護」は、ステークホルダーとの信頼関係の維持のために必須です。顧客情報や取引先の情報が漏洩すると、法的問題が起きるだけでなく、企業の信用が失われます。
これを防ぐために、情報管理のルールやガイドラインを明確にしましょう。従業員全員がその重要性を理解する仕組みを整える必要があります。
具体例は以下のとおりです。
- 機密情報を取り扱う従業員に対して、定期的に情報セキュリティ研修を実施する。
- 外部への情報持ち出しを制限するため、厳格なアクセス管理を導入する。
4.倫理研修への積極的な参加する
企業倫理を実際の行動に反映させるためには、従業員への教育が欠かせません。倫理研修を通じて「具体的な行動指針」「倫理的判断が求められる場面での対応方法」を伝えましょう。
また、研修を単なる形式的なイベントにせず実践的な内容にしてください。参加者の意識を高める工夫が重要です。
具体例は以下のとおりです。
- 倫理的な判断が求められるシミュレーションを含む研修を実施する。
- 従業員の質問や意見を積極的に取り入れ、双方向の議論を重視する。
企業倫理ホットラインとは
企業倫理ホットラインとは「従業員や関係者が企業内での不正行為や倫理的問題を匿名で報告できる仕組み」です。企業が、従業員の不正行為を早期発見・解決するための重要な手段となります。
人事院でも、公務員向けのホットラインを設けています。
出典)人事院「公務員倫理ホットライン」
ホットライン設置の重要性
企業倫理ホットラインの設置は、特に以下の点で重要です。
- 不正行為の早期発見
- 従業員の安心感の向上
- 法的リスクの軽減
- 信頼性の向上
企業が拡大し複雑化すると、企業倫理が形骸化してしまい、不正行為が見過ごされるリスクが高まります。
そのようなリスクを限りなく0に近づけるためにも、ホットラインの設置は有効です。問題を早期に解決し、安心して働ける状況を継続することにつながります。
企業倫理の意識を高める施策
企業倫理は「定めて終わり」ではありません。形骸化を防ぐためには、従業員一人ひとりが重要性を理解し、実践できるようサポートする必要があります。
企業倫理の意識を高めるための具体的な施策を解説しましょう。
- 定期的な倫理研修の実施
- 企業倫理・行動規範の明文化と共有
- 社内コミュニケーションを通じた意識向上
- 倫理違反に対する厳格な対応方針の策定
- 倫理的な行動を評価する制度の導入
1.定期的な倫理研修の実施
企業倫理の意識を高める第一歩は「従業員が理解できるように学びの場を提供すること」です。定期的な倫理研修を実施する必要があります。
実際の業務で遭遇し得る状況を、シミュレーションできるような工夫をしましょう。部署ごとにカスタマイズされた研修を実施すると、より理解しやすいです。
2.企業倫理・行動規範の明文化と共有
企業倫理を定めたあとは、明文化したうえで従業員全員に周知しましょう。行動規範が文書化されていれば、従業員は日常の判断基準として活用しやすくなります。
共有する際には、単なる文書配布にとどまらず、全社的なミーティングやイントラネットを通じて強調することが有効です。
3.社内コミュニケーションを通じた意識向上
日常的な社内コミュニケーションの中で、企業倫理について話し合う文化を育むことも重要です。日常的に企業倫理についての会話がなされることで、組織全体の意識を高められます。
4.倫理違反に対する厳格な対応方針の策定
倫理違反が発覚した場合の企業として迅速かつ厳格に対応する方針を明確にすることが重要です。
違反に対する具体的な罰則や対応プロセスを明文化し、従業員に周知しましょう。これにより、倫理違反の抑止力を高めます。
5.倫理的な行動を評価する制度の導入
倫理的な行動を促進するためには「従業員が正しく行動することで正当に評価される仕組み」が必要だといえます。
MBOなどに取り組むことも効果的です。人事評価に「企業倫理の遵守」を含めることで、従業員は積極的に倫理的な行動をとるようになります。
まとめ
企業倫理は、企業が社会的信頼を獲得し、持続可能な成長を遂げるための重要な基盤です。顧客や取引先との信頼関係を築き、不祥事の発生を未然に防ぐことが可能となります。
経営陣やバックオフィス担当者としては、これらの施策を積極的に推進し、企業倫理を日常業務の中で実践する文化を醸成することが成功への鍵となります。コンプライアンスだけでなく、企業倫理も定めて、ガバナンスを強化しましょう。
関連記事
-
下請法とは?中小企業が知るべき4つの義務と禁止行為をわかりやすく解説
ビジネスを円滑に進めるために、業務の一部を外部の企業に委託することは珍しくありません。しかし、「下請法」のルールを正しく理解しておかないと、知らず知らずのうちに違反してしまうリスクがあります。
本記事では、発注する立場として注意すべき義務や禁止行為、違反が経営に与える影響について解説し、適正な取引を行うためのポイントを紹介します。
-
金融商品取引法をわかりやすく解説!成立した背景や禁止行為を理解してリスクに備えよう
金融商品に関わる事業を行っている企業ならば、必ず意識しなければならない法律が「金融商品取引法」です。
しかし、「自社の規模ならば気にすることはないだろう」と軽く考え、金融商品取引法についての認識が甘い中小企業も多い状況です。
そこでこの記事では、どのような企業が金融商品取引法の規制対象になるのか、違反した際にはどのような罰則があるのか、などについて詳しく解説していきます。
-
【中小企業必読】下請法の支払期日とは?トラブルを防ぐために注意点
下請法は、親事業者の優越的な地位の濫用を防ぎ、下請事業者を保護するための法律です。その中でも、下請代金の支払期日は、下請事業者の経営を左右する重要な要素です。
この記事では、下請法における支払期日のルールについて、正しく理解し、適切に対応できるよう、具体的な計算方法や注意点などをわかりやすく解説します。
支払期日を守らなかった場合に発生する罰則や企業への影響についても触れるため、コンプライアンス遵守の重要性を理解しましょう。
-
個人情報保護士ってどんな資格?経営者は採用すべき?必要ない?
近年、個人情報の取り扱いに関する意識が高まり、企業にはより厳格な管理が求められるようになっています。特に中小企業は、専門の法務部門担当者が不足しがちであり、個人情報管理のリスクが大きいのが現状です。
そこで注目されるのが「個人情報保護士」という資格です。この資格を取得することで、個人情報の適切な管理方法を習得し、企業のリスクを低減することが可能になります。
しかし、「個人情報保護士」は国家資格ではありません。企業にとって本当に信頼できる資格なのか疑問を持つ方もいるでしょう。
本記事では、「個人情報保護士」の基本から、中小企業における必要性、取得のメリット、取得方法、企業として推奨すべき資格かどうか、を詳しく解説します。
-
【ひな形あり】中小企業にも有用な内部統制報告書とは?事例、提出方法など
内部統制報告書とは、企業が適切な業務運営を行うための内部管理体制(内部統制)の状況を明確に示すための報告書です。上場企業には提出が義務付けられています。この記事では、内部統制報告書の基本的な定義、ひな形の具体例、不備事例など、必要な情報をわかりやすく解説します。自社のガバナンス体制の整備や適切な内部管理に、ぜひお役立てください。